SEOに追いやられている「本当に有益な情報の載っているサイト」は実は存在しないのではないか

例えば出先でこの辺に美味しいランチがあるだろうかと思ってWeb検索してみると、上位には食べログ等のグルメレビューサイトがずらっと並んで、実際そのページを見に行っても結局どこの店がいいのか全然わからん、ということが多い。

ゲームの攻略情報なんかも同じで、企業運営の情報まとめサイトなり攻略Wikiなりがずらりと並ぶが、情報が古かったり中途半端にしか網羅されておらずがっかりすることが結構ある。

仕事でGAS(Spreadsheetとかで動くスクリプト言語)の情報を調べるとたいていプログラミング教室のサイトが出てきて、ページ滞在時間を増やすために単純なことを長々引き延ばしたような文章が書いてありだるい思いをする。


こういった現象は多くの人が経験している。そして何がこういった状況を引き起こしているのか、については「SEO(サーチエンジン最適化)の負の側面」と説明されることが多いように思う。
つまりこういうことだ。高アクセスを狙う企業運営のサイトは検索エンジンに強く最適化しており、検索上位に表示される。そのため本当に有益な情報の載っているサイトは下位に沈んでしまい、企業が粗製濫造したサイトばかりが上位に来るのだ、という理屈である。


ただ個人的な印象として、現実は必ずしもそうではないように思うのだ。
ここで想定されているような「本当に有益な情報の載っているサイト」というのが、実はみんなが期待しているほど存在しないのではないか。
SEOに強いから企業のサイトが上位に来るわけではなく、実はプレーヤーが彼らしかいない、ということが起きているのではないか。

昔はいまより「本当に有益な情報の載っているサイト」があった

もちろん、ずっとそうだったわけではない。
かつて、インターネットには「個人が運営しているような丁寧に情報をまとめたサイト」がたくさんあった。


90年代から2000年代前半にかけて、手打ちのHTMLで自分の知りうる情報をまとめたサイトがたくさんあった。蒲田のおすすめランチ情報であったり、トランジスタを使った回路の組み方であったり、ゲームの縛りプレイ攻略であったり。個人が丁寧に紡いだ、血の通ったコンテンツ。そういうページは infoseek とか geocities とか nifty のホームページサービスとかにたくさんアップされていた。それがのちのちブログ文化につながっていく。


それよりもうちょっと後の話になるが、膨大な情報を集積していたのは2ch(現5ch)である。ゲームであればタイトルごとにスレッドが立てられ、その中で日夜攻略についてのレスが交わされ、それ自体はフロー型で情報がどんどん流れていってしまう場ではあったが、いっぽうである程度情報が集積されると外部にまとめWikiが作られる流れがあった。ゲーム攻略に限らず、洒落怖やヘッドフォン情報のWiki(名前忘れた)など、自分がよく見ていたサイトの中でもこの掲示板を情報源として膨大な情報を蓄積していたものが無数にあった。

でも、消えた

そう、そのうちの多くは消えてしまった。

個人サイトの多くが置かれていた、 infoseek とか geocities とか nifty のホームページサービス。それらはここ10年くらいで相次いでサービス終了してしまい、膨大なアーカイブがすべて消失した。

ブログも今や書く人が少なくなり、新たな情報が蓄積されにくくなったうえに、Yahoo!ブログやヤプログはサービス終了で失われた。noteはいまも盛況だがあそこは情報よりも圧倒的にエモが強い。

5chはかつてのような賑わいを失い、現在では当時のような情報の集積機能はあまり期待できない。かつてあったまとめWikiも久しぶりに訪れると消えてしまっていることが多い。

舞台は移った

一方で、情報は新たな場所に集積しつつある。

それがSNSだ。TwitterにもInstagramにも毎日大量のランチ情報が投下される。が、SNSはログイン必須でGoogleにコンテンツまでクロールされていなかったり、あるいは写真が中心でテキスト情報をストックするタイプの検索エンジンとは相性が悪かったりする。

また、近年最も精力的に情報を発信しているのはYoutuberである。2021年において、趣味や生活の分野で何らかのノウハウが知りたければ、Youtubeで動画を探すのが一番早い。しかしそれは上記で想定されているような「本当に有益な情報の載っているサイト」からは無意識に除外されているように思う(有益ではあるが、ここで求められているのはあくまで文字コンテンツなのだ)。

まとめ

以前、ゲームの攻略情報を探して、検索結果の下の方まで掘ってみたことがある。
最上位に出てきたのは企業運営の粗製濫造な攻略サイト。それがしばらく続いて、次に出てきたのがゲームメディアの記事。ファーストインプレッションが書いてあるが攻略情報としては物足りない。そのあと出てきたのは個人が立てたWikiで、ほとんど更新されておらず中身がほぼ空。それから個人ブログのちょっとした攻略記事が2~3個出てきて、関係がありそうな情報はそれで終わり。結局、丁寧に作られた情報サイトはどこにもなかったのだ。

そういった実体験もあって、「本当に有益な情報の載っているサイト」自体が実は存在しなくなってきているのではないか、という思いというか恐れというか、そんなものが日に日に強くなっていく。


もちろん少しはある。それをSEOにつよい企業サイトが覆い尽くしてしまっているという、想定どおりの構図も全くないとは言えない。特に医療分野では、政府の情報がアフィリエイトサイトの陰に隠れてしまう等の悪影響は実際に起きている。
ただ、広い分野で見たときに、ここで覆い尽くされている「価値のあるもの」は、我々が期待しているほど多くないばかりか、どんどん減っているのではないか。最近そんなことを思って、ちょっと怖いな、と思ったのだ。


若者ほどWEB検索をしないでSNSやYoutubeで検索しているという話をたまに聞く。さっきも書いたようにYoutubeやSNSには十分な情報があったりすることを考えると、Web検索が過去のものになるという、我々世代には信じがたいことが、意外に近いうちに起こったりするのかもしれない。

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