マジで純度の高い雑談が聴けるPodcast「へんなお茶会」が良い

※愛聴しているPodcastが100回記念お祝いコメントを募集していたので送ろうと感想を書いたところ長くなったので、布教を兼ねてここに投稿します。

「へんなお茶会」は匿名の人々が2〜3人で収録した雑談を配信しているPodcast。「ブーちゃん」と「所せまし」(せまし君)の2人がレギュラーで、そこにゲストが1人加わるか、たまに2人だけの回もある。現在SpotifyYoutubeで公開されている。

話されていることにテーマは特になく、続き物でもなく、毎回ちがう雑談が収録されている。公式Xでは「雑談切り抜き」という表現で説明されている。

Youtubeで見るとオープニングのアニメーションがかわいい

マジで純度の高い雑談が聴ける

この番組の最大の特徴は、出演者が全員、捨てアカみたいな名前を使った匿名であるところにある。インターネットで匿名というと治安の悪いイメージがあるけど、この番組からそういうネガティブな印象を感じることは一切なく、むしろこの匿名性が他のPodcastにはない独特の面白さを獲得していると思う。匿名であることにより「マジで純度の高い雑談が聴ける」番組になっているのだ。

Podcastは肉声メディアであるがゆえに、話し手のパーソナリティとコンテンツが密着している。
たとえば僕がPodcastの番組を持っていたとしよう。自分は電子工作関連の活動をよくしていることから、きっと次の収録では最近作ってるものの話とか、先日出展したものづくりイベントの話、他の出展者の作品を見ての自分の感想、そこで知人と会った時のエピソード、とかを話すのではないか。

それはそれでその人にしかできない話で面白いのだけど、「へんなお茶会」を聴くと、そうでもないおしゃべりの形があるのだなと気づく。
出演者が全員匿名であることによって、その人の活動や属性を下敷きにした話が全然出てこない。最近の活動の話も、共通の知人の話も、この前した話の続きも出てこない。ただ純粋な雑談がある。

繰り広げられている話の例を挙げると…

  • YouTubeショートを見続けたときにたどり着く、もう次の動画がない状態「Youtubeショートの底」
  • クスクスはパスタの一種であり一粒ずつ手で作っているらしい
  • スシローの社長に感情移入した時だけなる「スシローの社長だったかもしれねェ…」という心境
  • 3日に1回ぐらい目隠しして連れ去られ続けたらやっぱ飽きるのかなあ
  • 水晶拾える海岸があって、元気な休みの日に拾いに行く
  • 何の液体が好き?

匿名の会話というと「匿名ゆえの無責任で奔放な発言」みたいなものを想像するかもしれないけど、へんなお茶会においては匿名がそういう用途で使われていない。むしろ匿名であることは話し手にとって自分のパーソナリティを前提にすることができないという制約であって、このルールがあることによって雑談の純度をめちゃめちゃ上げることに成功している。

別のものに喩えるとスポーツ報道にも似たところがあると感じていて、スポーツ報道の楽しまれ方にはヒューマンドラマの側面がある。その選手のこれまでの半生を前提として、その努力や紆余曲折、成功までの歴史を物語として楽しむような。
そうじゃなくて過去とは切り離して純粋にいま目の前で繰り広げられているプレイの凄さだけを楽しむ、という見方もあるはずで、Podcastの世界においてそれに成功しているのが「へんなお茶会」であるという気がする。

それゆえに、前提知識ゼロでどこから聞いてもOKな内容になっているのもよい。

※#10-1、#10-2、#10-3みたいに枝番になっているので、枝番は1から聞いた方がいいかも

聴き終わったときに出演者全員のことが好きになる

あとはレギュラーの2人がめちゃくちゃ話聞くマンであることも良くて、例えばせまし君の口癖は「もっと教えて」で、ゲストが何か軽く言ったことを捕まえて引き出し、その回のテーマになるような大きな話に育てていく。
ブーちゃんは逆にゲストの話が一通り終わった後に「今の話を聞いて思ったのは」って自分の感想を言うことが多くて(途中で言わないで終わるまで溜めてるのがすごい)、それがゲストからのさらなる話を引き出したり、話のいいまとめになったりする。単に話のテクニックとしてそうしているのではなくて、ふたりとも人の良さがにじみ出てそうなっているのも良い。

そのおかげで、(さっきの話と矛盾するようだけど)ゲストの個性がすごくよく出ている感じもする。聴き終わったときに出演者全員のことが好きになるタイプの番組なのである。

おすすめエピソード

個人的におすすめのエピソードをいくつか書きます。古いものから。
なんかうまく埋め込みができない回があるので、タイトルもリンクにしてある。


#4-2 おじいちゃんはレンダリングの話せえへんやん
収録日:2022/6/3
参加者:ラブ&ピー助 / ブーちゃん / 所せまし

初期の名作。最近自然の良さがわかった、という話からはじまり「海の見ごたえはやばい」「レンダリングすごすぎ」に至る時点で急に速が上がった感じがして聴きごたえがやばい。



#11 弟ずっと触ってるスマホ片時も離さない
収録日:2023/1/17
参加者:ガム / ブーちゃん / 所せまし

一番好きなエピソードかもしれない。帰省した時に弟がずっとスマホばっか見てたという愚痴(?)みたいな話から、終盤になって形勢逆転する凄い回。雑談に形勢逆転ってあるんだ。



#22-2 中トロはエッチだから高い
収録日:2023/5/19
参加者:所せまし / ポンピ・ドゥ / ブーちゃん

たまにせまし君が急に独白を始めるときがあって、その特によかった回がこれ。独白の内容がタイトルになってるんだけど、どういう話なのかは実際聞いてみてほしい。そのあと独白が連鎖する展開もいい。
同じシリーズで最近の回「#38-2 世界とセックス」もおすすめ。



#25-4 「逆だったかもしれねェ…」
収録日:2023/6/29
参加者:所せまし / インプラント高杉 / ブーちゃん

上に書いた、「スシローの社長だったかもしれねェ…」の回。あの説明だとよくわからないと思うのでそこまでの展開も含めて聞いてみてほしい。当時話題になった醤油ペロペロ事件を下敷きにした、誰に感情移入するのか、という話。



#26-5 俺のさしすせそ
収録日:2023/7/8
参加者:所せまし / ぽんず / ブーちゃん

会話テクニックの「さしすせそ」(さすがですね、知りませんでした、…)についての話。変なお茶会はほんとに冗談みたいな回と人生観をしんみり話し合う回があるんだけど、これはその両方のバランスが良くて初心者にお勧めしたい回。



#36-2 お部屋にウンコ飾ってfinish
収録日:2024/4/22
参加者:所せまし / ゴライアス / ブーちゃん

比較的最近よかったのがこれ。ジムに行く話から始まってとりとめなくVRの話に至る雑談らしい回なんだけど、最後に見事にオチがついてエレガントに着地する、芸術点の高いエピソード。

というわけで「へんなお茶会」をぜひ聴いてみてください。

余談

ついでに自分がテクニカルスタッフをやっているPodcast番組の紹介もしておきたい。
デイリーポータルZで一時期ライターをしてくれていたSatoruさんと、オモコロ等を中心に活躍されている岡田悠さんの、旅をテーマにしたトーク番組。

ある意味でへんなお茶会とは間逆で、レギュラーの二人の個性と好奇心、そして行動力が全てめちゃくちゃ強いのが番組の魅力になっている。
あとSatoruさんがマジで一人でもずっとしゃべりまくるタイプの人で、岡田さんはどちらかといえばシャイなタイプなのだけど、その二人が会話してグルーヴが成立しているのが奇跡的だなと、収録中に横で聞いてていつも思う。

こちらも良かったらぜひどうぞ。