私の選ぶインターネット文学と、故郷としてのネットコミュニティ

株式会社はてなさんより「インターネット文学」というテーマで記事を一本選んでほしいという依頼を受けまして、この記事を書いております。

はてなインターネット文学賞についてはこちら

まえおき

今年ではてなは20周年なのだそうです。

20年前というと2001年。現在では「オールドインターネット」とか呼ばれる時代ですね。テキストサイトが全盛で、おもしろFlashもその萌芽が見えてきたころです。2ch(現5ch)はまだできて数年で、それ以前より存在したあめぞう系やあやしいわーるど系などたくさんの匿名掲示板コミュニティがまだ残っていました。いまこれを書きながら確認のために「教科書には乗らないインターネットの歴史教科書(ばるぼら著・翔泳社)」をめくっていると、10年前に妻に花束を贈ったときのレシートが挟まっていて大変エモかったです。(完全な余談)

あまり懐古主義的に昔のことをありがたがるのは好きではないのですが、とはいえ豊饒な時代でした。あの頃のインターネット。当時は僕も例にもれず泡沫テキストサイトをやっておりまして、CGIの使えるホスティングサービスに無料配布されている日記帳スクリプトを設置して、日々の生活でのできごとや時事ネタを面白おかしくいじるような日記を更新しては1日10PVくらい……といういま考えたら生産性皆無の活動をしていました。あるときCGIの誤作動によりそのログファイルが全部消えてしまい、これではいかんということではてなダイアリーに移行した……んだったかな、細かい時系列は忘れましたが、とにかくその数年後にははてなのサービス群を使ってインターネットユーザーとしての活動をしていたことは確かです。

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当時の自分のサイトの背景に使っていた写真。たぶんガラケーで撮ったやつ。当時大阪に住んでいて、阪急神戸線から撮った淀川の風景だったような

それはさておき、さきほど「たくさんの匿名掲示板コミュニティがまだ残っていました」と書いたのですが、自分はそういうコミュニティの出身です。いやネットコミュニティに出身とか別にないんですけど、ネット活動の初期に入り浸っていて、自分はそこに所属しているんだというアイデンティティがあって。だって今でも「住人」って表現はありますよね。初めて住んだ場所で、いまそこを出ているとしたら、それは出身です。
僕が住んでいたのは「あやしいわーるど」っていう96年くらい(?)からある匿名掲示板……から派生した掲示板でした。2chみたいに板やスレッドに分かれてなくて、いっこの掲示板でみんなだらだら話している。住人が総勢何人いたのかは不明ですが、24時間いつ行っても誰か人がいて、ずっと冗談を言い合ったり、煽り合ったりしている。アングラサイトの流れもあって、ポリコレの現代から考えるとあまり上品な場所ではなかったですけど、自分はそこで(オールド)インターネット的な冗談のセンスとか、処世術を身に着けました。まさに出身地です。

当時はそういう掲示板がいっぱいあって、それぞれ独自の文化があったんですよね。いまの「全員Twitterやってる」的な感じとは違って。ほかにはなみかれとか自アンとかいろんな掲示板があって、それぞれ独自のスラングやその中だけで流行ってるネタを持っていて、使われている顔文字も違う。勢力が強いところは派生サイトとして用語集のページやおもしろかったログの倉庫を持っていて、文化の保全が図られていたりもする。あそこの掲示板とここの掲示板は仲が悪いとかいった外交関係まであった。
いまオールドインターネットが語られるときって、テキストサイトについて語られることが多いと思います。ですけど僕はどちらかというとそういうコミュニティ側の住人で、そっちの方に当時のインターネットの豊饒さを感じていました。

このブログではちょくちょく書いているのですが、僕は「文化の本質は多様性」というのを信じていて、その原体験はここにあるように思います。自分の住んでいる掲示板には独特の文化があり、隣の掲示板に行くとまた別の文化があり、またよその掲示板にはまた別の……。いまワールドミュージックを趣味で掘っていて、なにがおもしろいって各地の音楽の違いや影響関係を感じるのが一番面白いんですよね。それとまったく同じ関係が、当時の匿名掲示板コミュニティにはあった。そういう文化的多様性が当時のインターネットの掲示板文化の豊饒さを形作っていたんです。*1

ここから本編

といつまでも自分語りをしていてもしょうがないので、僕の選んだインターネット文学なのですが…

amino774ml.hatenablog.com

このエントリです。
自分が2003年に2chに立てた何の変哲もないスレ「アミノバリューってどうよ?」が、いつしか自分にとってかけがえのない存在となり、そして……最終的な結末はぜひ本文を読んでほしいのですが、ここで伏せるまでもなくタイトルに書いてありますね。いや、でも絶対読んでほしい。

功罪はあれど、やはり2000年代のインターネットを語るのに2chは外せない存在でした。そしてその歴史はいまに至るまで続いています。ずっと続いているということは、それと共に生きてきた人がいるわけなんですよ。
そういう人たちって、大半は常に熱心に入り浸ってるわけではなくて、「一時期よく見てたけどそのうち疎遠になる」みたいな感じだと思うんです。そういう人の描いたリアルな手記として、すごくいいし、わかる。単にネット上で起きたことではなく、ネットがある人生で起きたこと、というか。

ネットコミュニティの面白さのひとつに、自分と独立に育っているところがあると思うんです。久しぶりに行くと、「あの頃そのまま」ではないんですよね。ずいぶん様変わりしてるけど、ちょっとだけ昔の匂いが残ってたりする、みたいな。そういう意味ではネットコミュニティって現実世界の街に近いと思うんです。だからこそ「住人」って呼ばれたり、僕も「出身」なんて言葉を使ったのかなと思います。

コミュニティ論みたいになってしまいましたが、単純にエピソードとしても、文章としても、全方位でおもしろい最高のエントリなので未読の方はぜひ読んでほしいです。

ともあれ、はてなさん、20周年おめでとうございます。

はてなブログでは、7月15日(木)から特別お題キャンペーン「はてなインターネット文学賞」を実施しています。この記事はキャンペーンの一環として、nomolk / 石川大樹さんに「インターネット文学」について執筆いただきました。(はてなブログ)

*1:ここでいう多様性は現在言われるダイバーシティとは別の話。あくまで「いろんなローカル文化が同時に存在してパリエーション豊かだった、たくさんの種類があった」という話で、人間属性の多様性ではないです。そもそもネット人口自体が当時は偏っていたので