ワールドミュージックはなにが面白いのか

なんとなく他人と音楽の話になって、何聴くんですかーみたいな話になったときに「ワールドミュージックです」って言うとたいてい「そうなんですねー、ところで…(別の話題)」ってなるんですけど、どうも世の中にワールドミュージックの面白さが理解されてないみたいなんですよ。なのでこの機会に、ワールドミュージックの何が面白いのかをご説明しようと思います。

説明にあたってワールドミュージックという語の定義を明確にしておく必要があると思いますが、ここでは「土着の音楽そのもの、あるいは土着の音楽の影響を強く受けている音楽」くらいの意味合いで使います。
また筆者は趣味で聴いてるだけの人間なので、専門家であるとか、特定のジャンルにすごい詳しいというわけではありません。どちらかというと広く浅くいろいろ聴いているタイプの人間です。最近は昔ほど掘れてないので、サンプルとして挙げる音源は少し古いものが多いかもしれません。

※各動画のコメントのあとに(リリースされていれば)CDのリンクが貼ってあります。(album)は収録アルバム、(recommend)は同じ曲じゃないけど同ジャンルでおすすめの盤、(search)はおすすめが選びきれない場合に検索結果画面にリンクしてあります

面白さ①:現在進行形である

ワールドミュージック=民族音楽?

最初によくある誤解を解いておきたいと思うんですけど、知らない人がワールドミュージックって言われてわりと想像しがちなのってこういうのじゃないでしょうか。

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これはブルガリア国営放送の女声合唱団のコーラスで、ブルガリアンヴォイスと呼ばれている音楽です。攻殻機動隊のBGMを連想する方もいるかもしれません。独特かつ迫力のあるハーモニーが特徴です。 (album)

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こっちはガムランですね。バリ島の音楽です。いわゆるドレミではない独特の音階と、打楽器ばかりで構成されているのが特徴でしょうか。 (recommend)

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三番目はインド古典音楽で、シタールの名手、ラヴィ・シャンカールの演奏です。シタールはギターに似ていますが、弾くための弦のほかに共鳴弦がついていたりして構造的な違いがあります。フルートやタブラ(打楽器)など、インドの楽器はすべてが独特です。*1 (recommend)

こういうコテコテの土着系の民族音楽(=伝統音楽)*2ももちろん大好きなのですが、こういうのはワールドミュージックの楽しみのうち、半分くらいでしかありません。ではもう半分はどんな感じかというと、こういう現代的な音楽です。

現代のワールドミュージック

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これはジャンル的にはアフロソウルとでも言えばいいんでしょうか、セネガル出身の女性ボーカリスト Julia Sarr が、フラメンコギタリストの Patrice Larose と一緒に出したアルバムです。アフリカ的で力強いながらも澄んだヴォーカルと、ジャキジャキしたスパニッシュギターの絡みが最高にかっこいいです。それでいてアダルトで落ち着いた空気感なのもよい。ちなみにこのアルバムを出している No Format というレーベルは全部良いので全部買うといいです。 (album)

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同じくアフリカものですが、こういう音楽はアフロ・ビートと呼ばれており、アフリカのナイジェリアで1970年代にフェラ・クティという神様的な存在のアーティストが確立しました。それを現代に継承しているアンティバラスというニューヨークのバンドです。アメリカ音楽であるファンクとはちょっと違った力強いグルーヴ(ノリ)が特徴。 (album)

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これはラテン・ジャズっていうことでいいんでしょうか、Quanticはイギリス出身のプロデューサーですがコロンビアに移住してラテン音楽をやっている人です。名盤と評されるアルバム Tradition in Tradition から一番好きな曲を。上のアフロ・ビートと比べてみると、アフリカとラテンのグルーヴ感の違いがわかって面白いと思います。間を流れるように滑り込んでくるストリングスが泣ける。 (album)

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スカ・クバーノはキューバ音楽とスカ(ジャマイカ音楽)の融合を図ったバンドで、「ッジャン、ッジャン」っていう裏打ちのリズムはスカのそれ、そして熱いブラス(金管楽器)がキューバです。 (album)

先述したとおり筆者は最近の音楽にちょっと疎くなっているので、ここに挙げたのは10年くらい前の音源が多いですが、それでもいわゆる「民族音楽」のイメージとはちょっと違うと感じていただけると思います。しかしながらどの曲も各地域の音楽を脈々と継承しており、ワールドミュージックと呼ぶにふさわしい音楽たちです。

ワールドミュージックとは、古い伝統を慈しむだけの趣味ではありません。むしろいろんな地域の、古いもの新しいものにフラットに触れることで、文化の脈動と広がりを感じるのがその醍醐味なのです。

面白さ②:めちゃくちゃいろいろある

というわけでここからは、地理的な広がり、時間的な広がりに分けて色々な音楽を見ていきます。まずは地理的な広がりから。世界は広いので、予想だにしなかった音楽がたくさんあります。そういった音楽に触れられるのがワールドミュージックの醍醐味です。

ウォータードラムとコーラスいろいろ

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太鼓というと木や金属の胴に革を張ったものを想像すると思いますが、これはウォータードラムといって、水面を叩いて太鼓にしています。ウォータードラムはアフリカのバカ族(いわゆるピグミー)のものが有名ですが、上の動画はバヌアツのものだそうです。

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ピグミーに話を移すと、彼らは非常に独特な合唱音楽を持っています。日本人は合唱と聞くとどうしてもハーモニー重視の音楽を想像すると思いますが、アフリカ音楽はグルーヴが中心にできているのだなという感じがしますね。これは夏の夜に窓を開けて虫の声とセットにして聴くと最高です。 (album)

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合唱の話になったのでこちらも。これは南フランスのオクシタニア地方のコーラスグループです。2007年のアルバムなのでわりと最近の音源です。日本でこのくらいの人数のコーラスグループだとアカペラをやっていることが多いですが、それと比べると全然違う音楽ですよね。オクシタニアはフランスというよりカタルーニャに近い文化圏だそうで、こういった独特の音楽様式があるみたいです。これもピグミーコーラスと同じで、ハーモニーだけで美しく聴かせているわけではない。「ディギディギ」みたいなリズムを引っぱるようなフレーズがたくさん入っているのが印象的です。 (album)

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「歌の力」という点では個人的に世界で一番ではないかと思っているのがヌスラット・ファテ・アリ・ハーンです。パキスタンのカッワーリーという宗教音楽のシンガーです。スーフィズムとよばれるイスラム教神秘主義の音楽だそうで、イスラムの戒律では禁止されがちな音楽や舞踏をその宗教活動に取り入れた一派なのだそうです。とにかくすごい高揚感というか恍惚感で、こんなものを現場で聴いた日にはトランス状態待ったなしでしょう。信仰に使われるのもよくわかります。 (recommend)

珍しい楽器

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南アジアつながりでインド音楽です。これはタブラという太鼓で、映像を見るとわかると思いますが打楽器の中では特に技巧的なことで知られています。単に掌でたたくのではなくて、それぞれの指や手首まで使っていろんな音を叩き分けています(しかも超高速で)。この一音一音に名前がついていて、途中、叩きながら「テテケター」みたいなことを言っている場面がありますがあれはその音名です。ザキール・フセインという一番有名な名手の演奏です*3 (recommend)

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変わっていすぎて逆に有名な楽器がディジュリドゥです。オーストラリアの原住民のアボリジニの楽器ですが、正体は中身を白アリが食べたユーカリの木です。音を出す構造としてはラッパと同じ。ただし音程を変えるためのピストンバルブはついておらず、その代わり唇を動かして音色を変えることで演奏します(音程ではなく音色で音楽ができているのです!)。ディジュリドゥについては以前も詳しく書いたので興味があったら読んでみてください。
こういうのを倍音楽器と呼んだりしますが、モンゴルのホーミー(楽器というか歌唱ですが)とかトゥバの口琴とか、他にもいろいろあります。

楽器についてはもっと紹介したいところですが、正直、地域の数だけおもしろい楽器があり、それらを挙げ始めるときりがないので2つだけにしておきます。

急にスターが見つかる

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さいきんSNSで話題になっている trio mandili というジョージアの3人組のグループです。たのしそうに歌う笑顔が印象的ですが、こういう個人撮影のビデオがYoutubeで話題になって一気に世界中に広がる、みたいな現象がたまに起こります。(これについてはワールドミュージックに限った現象ではないかもしれませんが)

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このオマール・スレイマンは、シリアにやばい結婚式シンガーのおっちゃんがいる!!みたいな感じで発掘された人。一応ダブケっていう現地の舞踏音楽なんですけどこんな速い音楽じゃないし歌ってる様子もなんか直立してゆっくり手拍子する風格がやばい、みたいな感じで世界中で話題になってビョークも絶賛!みたいな。このときのワールドミュージック界隈での騒がれようはすごかったです。 (album)

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急に見つかった系でいうとニカラグアのマイケルジャクソンと呼ばれているこの人が個人的にはめちゃくちゃ好きなんですけど、その後デビューしたという話は聞かないので残念。

そういえば古くはポンチャックのイ・パクサなんかもこれ系の登場の仕方だった気がしますね。

土地のイメージと違う音楽

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土地のイメージと、その音楽性が一致してなくて意外でおもしろい、というパターンがあります。例えばこれはアルゼンチンなんですけど、アルゼンチンの有名な伝統音楽はフォルクローレっていうやつで、「コンドルは飛んでいく」みたいな、ベッタベタの南米音楽です。あとはタンゴ。社交ダンスとかで使われる情熱的な音楽をイメージしてもらうとだいたいあってます。
ところが最近になって出てきた現代アルゼンチン音楽、ネオ・フォルクローレとも呼ばれるんですけど、それがめちゃくちゃ端正で、繊細で、美しい。その中でお気に入りの曲です。ブラジルのシンガーとアルゼンチンのピアニストの共作ですが、ネオ・フォルクローレってこんな感じ。 (album)

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上の続きでこちらもネオ・フォルクローレ。ギターの名手キケ・シネシと、ピアニストのカルロス・アギーレのセッションです。こういう端正で優しい感じの音楽がいまアルゼンチンにめちゃくちゃある。すごい豊饒なんです。 (album)
で、ちょっと前をさかのぼると

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実は電子音楽で「アルゼンチン音響派」という派閥があって、こういう繊細な感じの音楽をやっていたので、影響関係がちょっとあるのかもしれない。でもこのあたり詳しくないのであまりよくわからないです。

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これも意外な音楽性。台湾の山岳少数民族であるブヌン族のコーラスです。台湾の音楽って何も知らない状態で想像してみると中国っぽい感じかなーとか思っちゃいますが、こういった音楽も存在しています。アメリカ人のチェロ奏者との共作ということで純粋な伝統音楽ではありませんが、こういう異文化との邂逅もワールドミュージックの面白さの一つです。 (album)

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あとはアメリカなんかはロックやらヒップホップを生んだ音楽文化ど真ん中の国なので、ワールドミュージックなんてないのでは……と思うとしっかりカントリーがあります。それはそれで新しい人たちが「いわゆるカントリー」みたいなのから離れて新しい音楽を模索していたりして面白いです。

そんな感じで「いろいろある」をキーワードに、ワールドミュージックの面白いやつをたくさん見てきました。
次は時間的な広がりについて見ていきます。

面白さ③:音楽という文化を俯瞰できる

先のパートでは、世界中にいろんな音楽があることがわかりました。しかしそれらはただ「ある」だけではなく、生きています。インターネットのおかげで我々は新旧豊富な音源のアーカイブにアクセス可能なので、地域だけでなく時間軸すらも行き来して、さらなる文化のダイナミックな動きを見ることができます。それぞれの音楽が相互に影響し合ったり、またテクノロジーの発展などの影響を受けてどんどん変わったり細分化したり、融合したりて新しいものが生まれる。そういう面白さがあるのです。例えば…

タイのモーラムの現代化

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タイ北部やラオスで演奏されるモーラムという音楽があります。これは伝統的な演奏のものです。日本の雅楽の笙に似た、構造としては長いハーモニカみたいな楽器の伴奏が印象的です。 (recommend)
これを聴くといかにも田園地帯の牧歌的な音楽という感じですが…。

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これが現代化されるとこんなめちゃくちゃかっこいい音楽になります。どうも現地では結婚式のような催事のときに演奏されたりするようです。この動画ではキーボードが弾きまくっていますが、phinと呼ばれる3弦のエレキギターみたいな楽器が弾きまくる場合もあります。 (recommend)
で、それがさらに洗練されていくと……

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The Paradise Bangkok Molam International Band というバンドの音源です。ベースラインがすっかり今風になり、いかにもバンドサウンドという感じの骨太な音でめちゃくちゃかっこいいですが、総体としては紛れもないモーラム。 (album)

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さらに別の展開で、PHAT DATというバンド。こちらはネオアコっぽいソフトでおしゃれな曲調で始まりますが、2分過ぎたあたりから「ウワッこれモーラムじゃん!」って感じになって、おもしれーと思ってもう1回聴きなおすと実は冒頭のイントロが完全にモーラムのそれ…というだまし絵みたいな曲。ものすごく好きです。 (album)

冒頭にワールドミュージックは伝統音楽と現代の音楽があると書きましたが、それらは分断されて2つがあるのではなくて、このように歴史の中で新しいテクノロジーが導入されたり流行りの音楽と融合したりして、脈々と受け継がれてそのバリエーションが広がっていくものなのです。そして我々は現代の豊富なアーカイブを通して、それらの流れを俯瞰して見ることができる。これがワールドミュージックの醍醐味と感じます。

ジプシー音楽の広がり

もう一つ別の例、今度は伝統的な音楽の間にも相互関係があるという例です。

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スペインの音楽といえばフラメンコ。ラスゲアード奏法と呼ばれる、爪で複数の弦を「ジャラーン」と一気にはじく奏法のギター、そして独特の変拍子が特徴の音楽です。これはフラメンコギターの名人、パコ・デ・ルシアの演奏。 (search)
フラメンコといえばこうしたギターに合わせて華やかな衣装の舞踏家が躍る音楽だと考える人も多いと思いますが、

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カンテ・フラメンコという歌を主体としたフラメンコもあり、こちらのほうがより古くからある形態です。むしろフラメンコの本質は歌であり、ギターも伴奏に過ぎないという意見もあるようです。

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と言いつつギターに話を戻しますが、となりのフランスはまた違ったギター音楽があって、こちらはマヌーシュ・スウィング、あるいはジプシー・ジャズと呼ばれています。フラメンコの情熱的な演奏と比べるとこちらは瀟洒でおしゃれ。フランスのステレオタイプなイメージとよくマッチします。こちらも名人でチャボロ・シュミットというギタリストの演奏。 (search)

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で、それらの音楽のルーツはいずれもジプシーにあると言われています。流浪の民とも呼ばれるジプシー達はインドをルーツとし、移動生活をつづけ、ヨーロッパ中に広がりました。
現代では彼らの音楽はロマ音楽と呼ばれていて*4、今もルーマニアを中心にヨーロッパ中で音源がリリースされています。これはタラフ・ドゥ・ハイドゥークスという一番有名なバンドの音源です。
ズンチャッ、ズンチャッという軽快なリズムにのせて朗々と歌い上げる歌唱、そして楽しげながらどこか憂いのこもったようなメロディが染みます。
右の方にいる男性が画板みたいに首にかけている楽器がありますが、これはツィンバロンと呼ばれる弦楽器です。ピアノは鍵盤を弾くとハンマーが弦を叩く仕組みになっていますが、そのハンマーを直接手で持って叩くような楽器です。 (album)

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実は僕はロマ音楽がいちばん好きなので、さらに何曲か紹介します。ロマ音楽のもう一つの魅力は「速い」ことです。色々理由をつけてきましたが、僕は単に速いからロマ音楽が好きなだけかもしれません。速いは正義。 (album)

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こちらは同じロマ音楽でも、ハンガリーのバンドです。こちらの曲は速いのにくわえて「ハッ」「オッ」みたいな合いの手がマシマシで入っており、最高です! (album)

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ジプシーがインドをルーツとしているということは、その音楽のルーツもインドにあるようです。そのあたりを追った「ジプシーキャラバン」というドキュメンタリー映画があり、これは本当に良いので機会があったらぜひ見てほしいです。 (DVD)

新しい伝統音楽

あと歴史といえば面白い話があって、これ

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ケチャですね。バリ島に行くとオプションツアーで必ずこのケチャを見に行くツアーがあると思います。 (recommend)
このケチャ、音楽として独特すぎて見落としがちなのですが、実は

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ガムランを楽器を使わず人の声で再現したものなのです。聴き比べてみるとよくわかると思います。 (recommend)

こういう「ある音楽をちょっと変えると別の音楽になる」という現象はたまにあって、たとえばサンバのテンポを遅くするとボサノヴァになるとか、その辺も色々調べてみるとおもしろいです。

で、ケチャに話を戻すと、人の声だけで構成されているしなんか宗教的な感じがするしで、太古から続く伝統の音楽みたいな感じがしますよね。でも実はそうではなくて、1930年代にドイツ人の音楽家が観光客向けの芸能として作った、わりと新しい音楽なのです*5
冒頭にあげたブルガリアン・ヴォイスも今の形になったのは1950年代といわれていますし、一口に伝統音楽といっても歴史の長さは様々です。

デジタル・クンビアという特異点

さいごに、ふたたび古い音楽が現代に生まれ変わる様子を見てみましょう。

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クンビアというコロンビアの音楽です。いかにも中南米っぽい音楽ですが、注目したいのは独特のリズムのモタリというか、ヨレる感じ。これが2000年代後半になぜかクラブミュージックの世界で非常にウケまして、デジタル・クンビアと呼ばれる音楽がたくさん生まれました。 (recommend)

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リズムのモタりを極限まで強調した曲。デジタル・クンビアはクラブミュージックですから踊るための音楽なわけで、ここまでやっちゃって大丈夫!?という感じもしますが、実際身体を動かしてみるとこのつんのめる感じが癖になります。 (album)

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こういうアバンギャルドな感じのサンプリングコラージュも生まれました。Dick El Demasiado の Sin Pues Nadaというアルバムですが、全編こんな感じでめちゃくちゃ面白いので、変わった音楽が好きな方はぜひ聴いてみてほしいです。

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これなんかはデジタル感は薄れますが、クンビアのリズムを下敷きに、オリジナルのクンビアとはまたちょっと違った方向で普通にかっこよく発展させています。 SEXTETO IRREALという人の jogging というアルバムですが、ほかにもクンビアをジャズっぽく仕上げたりダブっぽく仕上たりといろんな曲調に料理されていてカラフルで楽しいアルバムです。 (album)

クンビアってやっぱり元々が「ちょっと変わった」音楽なので、デジタル・クンビアブームの時もとにかく変態っぽい音楽がたくさん出てきて面白かったです。音楽の多様化におけるちょっとした特異点といってもいいかもしれません。

どうやって掘るのか

以上、ワールドミュージックの面白さを3つの要素に分けてご紹介しました。自分の趣味のものを貼っているだけなのでケルトがないとか中東が薄いとかいろいろご指摘はあると思いますが、そういう特定ジャンルに興味のある人はぜひ各自検索してみてください。
さて、ここでワールドミュージックに興味を持ってもらっても「で、それどうやったら聴けんの?」って話になると思います。そういう方のために簡単なガイドをつけておきます。

気に入った曲がある場合

なんかワールドミュージックっぽい良い曲を見つけたので似たようなのをもっと聴きたい、という場合です。とりあえずその曲のジャンル名を知る必要があります。曲名とアーティスト名で検索してレコード屋のページに書かれているレビューなんかを見るとわかると思います。
で、ジャンル名がわかったらそれをそのまま音楽サブスクとかYoutubeに突っ込んでもいいのですが、おすすめは「(ジャンル名) 名盤」とかで一回Web検索することです。日本語でダメなら英語で。それで出てきたものを音楽サブスクとかYoutubeで検索するといい音楽に出会えます。

新しい音楽に出会いたい場合

Nonesuch explorer とか Sublime Frequencies 等のワールドミュージックレーベルのアーカイブのシリーズがあるので、適当にピックアップして聴いてみるといいと思います。昔はノンサッチが1枚1000円なのでお買い得でしたが、今だとどちらもサブスクでけっこう聴けるみたいです。無印良品のBGMがCD化されているのでそこから手を付けるのもありかも。

まとめ

というわけで、

  • ワールドミュジックには地域的な広がり、時間軸上の広がりの両方がある
  • そのいずれにも現代の豊富なアーカイブによりアクセス可能であり
  • それを通して、音楽という文化が脈動し、育ち、広がり、多様化していく様子を俯瞰して見ることができる

以上がワールドミュージックの醍醐味です。先日「文化の本質は多様性である」という話を書いたんですけど、ワールドミュージックはダイレクトにそれを感じられる趣味なのです。

おわかりいただけたでしょうか。

*1:余談ですがラヴィ・シャンカールはジャズシンガー/ピアニストのノラ・ジョーンズの父です。

*2:後述しますがブルガリアンヴォイスは1950年代に整理された音楽なので「コテコテの土着」とまで言ってしまっていいかは微妙ですけど

*3:日本人のタブラ奏者ではユザーンさんが有名ですが、その師にあたります

*4:正確に言うと「ロマ」という単語自体はジプシーの中でも一部を指す呼称のようなのですが、ジプシー音楽はまとめてロマ音楽と呼ばれる傾向がある気がします

*5:原型となった宗教儀式は存在するという話ですが、音源にたどり着けなかったのでどういったものであったのかはよくわかりません