インターネットで中途半端に長く生きているので初音ミクの登場当時も知っていますが、あの頃の「電子の歌姫・初音ミクさんが一生懸命エモい歌を歌う」的なノリについていけず、以来ずっとボカロカルチャーからは距離を置いてたんですよね。
なんですけど2024年の秋、急に「ボカロ聴かねば」と思い立ちまして、なんつうかもうカルチャーとしての規模と多様性を鑑みるにこれを無視していたらやばい、というのを急に感じまして、それ以来ちょくちょく掘っています。
自分は音楽こそ好きなものの、映像(MVとか)に興味がない、歌詞にも興味がない、そもそも歌なしのインストでいい、ボカロのキャラも(2024年当時)知らんというかなりボカロリスナー向きでない人材なのですが、逆にそういう自分の選曲だからこそ届く人もいるのでは、ということで自分が面白いと思ったボカロ曲をできるだけたくさん紹介したいと思います。
そうはいってもリスナー歴一年半ですし全く「詳しい」わけではないので、歴史やシーンの動向みたいなところは触れずにサウンド面のコメントが中心です。またボカロ文化に馴染みのない読者を想定しており、知られざる名曲紹介みたいな意図ではないので超有名曲もバンバン紹介します。
YouTubeでプレイリスト作ってあるのでまとめて聴きたい人はどうぞ。音だけ聴きたい場合はYouTube Musicでも使えると思います。
youtube.com
東京真中 - ブレインロット feat. 重音テト

もしまだボカロに「電子の歌姫・初音ミクさんが一生懸命エモい歌を歌う」のイメージ持ってる人がいたら(いるかな!?)まずこれ聴いてくれということで最初に挙げます。
ボカコレっていうニコニコ動画主催のボカロ投稿週間みたいなイベントがあるんですけど、先日のボカコレでランキング2位だった曲です。
総体では浮遊感を感じさせつつ、わりとアップテンポでシャキシャキした4つ打ち。歌も体温や叙情を排したすげえクールなボーカル。かっこいいですよね。
映像がバックルーム的なルミナルスペースなのにも注目してほしくて、わりとこういうルミナルスペース的なものや、VHSっぽい映像で屋外を写したようなファウンドフッテージ(行方不明者が残した撮影データ)テイストの映像がボカロ界のひとつの潮流としてある気がします。
■37 - ふぁうんどふってーじ / ■37 feat. IA

で、さっきの話の続きをすると、これは2022年の曲で、たいとるそのまんま「ふぁうんどふってーじ」なんです。これはそういう潮流の、元祖かどうかまではリアルタイムで見てきたわけではないのでわかんないんですけど、たぶん初期のものなんではないかな?と思っています。
ボカロって日本のオタク寄りアマチュア音楽としてもう少なくとも10年くらいはずっと存在感あり続けてきたわけじゃないですか。かたや海外にもvaporwaveからdreamcoreやらweirdcoreやらへと続くオタクのアマチュア音楽の潮流があったわけで、ただその2つって今まで意外なほど接点がなかった気がするんですよね。それがこういうルミナルスペース的なものを契機についに接点を持つようになった、というのがすごくアツいなと思います。
あばらや - かなしばりに遭ったら / 歌愛ユキ、ナースロボ_タイプT

ジャージークラブ的な5つ打ちに雑多な音がごちゃごちゃに詰め込まれててけっこう派手な曲だと思うんですけど印象はすげえクールという。
で、そのクールな空気感を作り出してるのが、歌愛ユキ&ナースロボ_タイプTのヴォーカルだと思うんですよね。ボカロカルチャーの多様性と、ボカロであることの意義を両方感じさせてくれる曲。
フロクロ - 黒塗り世界宛て書簡/重音テト(Letter to the Black World / Kasane Teto)

あとこれは歌詞のギミックがサウンドまで影響してるのがすごいおもしろくて、一部黒塗りになってる歌詞のピー音が曲の1パートになっています。
で、ついでにそのフロクロさんからもう1曲紹介したいのがこれ。

※音声エンジンはボカロの語源であるVOCALOIDのほかにCeVIO AIとかSynthesizer Vとかいろいろあるんですけど、そういうのを使った音楽を総称してボカロと呼ばれていると思います。
d.j.ァネイロ - いはないお約束 / feat.flower

歌声の使い方がもうなんかラップ超えてパーカッションみたいなんですよね。
オケに対しての歌、みたいな使い方を全くしていないというか。ボカロ掘り始めて初期に聴いて「こんなのまであんのかよ」と思ってかなり度肝抜かれた曲。
文学的なブーバキキ / flower, 重音テトSV [ Boom, but kick it! ]

ベースラインも気持ちいいし、高音部でピロピロ言っているピアノ?鉄琴?みたいなサンプルが、ドラムのシャッフルビートと相まってラグタイムっぽくも聴こえたりしてかわいい音なのにがっつりグルーヴを支えてる感じが新鮮。
コメントに「0:39でメロディと色彩が一気に解禁されるの気持ち良すぎる」って書いてあったけどほんとそう。
……ちょっとダンスミュージック寄りのが続いたので一回方向転換します。
citrus fossil - あなたはヒーロー / citrus ft.罪告ナエ

歌声で聴かせるタイプの曲をボカロでやってるのが面白いともいえるし、逆にこういうシンセ音楽こそボカロでやるべきという感じもする。あと単純にめちゃくちゃいい曲なんですよね。本当に好き。
schoolmizzy - nothing / 初音ミク

音楽もかわいい、絵もかわいい。で、初音ミクなんですよね。初音ミクって聞くとやっぱりあのキャラクターがパッと思い浮かぶんですけど、こうやって先入観抜きで聴いてみると、はー、こんな声だったのか、と思って。
その歌声の魅力を再確認した曲でした。これ書いてる4/14に初音ミク V6が発売されたらしいんですけど、一番最初にリリースされた声がこうやって今でも愛されて使い続けられてるというのもすごく良いですよね。
ikomai - 最も内層 feat.ついなちゃん

こうなってくるともう普通に歌すぎて、「もはやボカロである意味があるのか」とかいう気持ちが出てくるんですよね。
そしてそれは奇妙なことでもあります。だってボカロって元々は歌声の代替で生まれたんだから、生声を完全にリアルに再現できることはゴールだったはずなんです。でも実際そうなったときに「ボカロである意味」とか言いだしてしまうのは奇妙な現象ですよね。
まあそれは置いといて、「ボカロはボカロであってもはや人間の代替ではない」というのは現代ボカロ文化の大前提にある話だと思うんですよ。そういう意味ではここまでリアルに歌わせるのはむしろ異端という気がします。
曲もめちゃくちゃ気持ちよくておしゃれなソウルポップという感じですげえクオリティ高く、繰り返し聞いてしまう気持ちよさのある曲。
一方で同じ人の別の曲

ていうかこの人の曲も全部いいのでみんな聴いて。
ひらぎ - 天国 / ひらぎ × 初音ミク (long ver.)

この曲で面白いのは、メインボーカルは初音ミクですけどコーラスには生声が入ってるんですよね。ボーカリストがいないから使ってるボカロじゃなくて、ボーカル持ってる人が「選んだ」ボカロ。
あと曲自体も休符がすごく気持ちが良い。映像の最初のクリップが窓から風が吹き込んでくる映像なんですけど、曲の中にもそよ風が吹き込んでいるような、そんな気持ちよさがあります。
namitape - リミナル訪問 feat. Synthesizer V Mai

80'sっぽいサウンドと、アイドルっぽいというかうますぎない歌がすごく合っててこれは最高だなーと思うんですけど、これもSynthesizer Vですね。
かっこよさとかわいさが両方あってもう何回でも繰り返し聴きたい曲。約1:30と短いので10分あれば6回聴けます。お得!!!
Natrium - 初音ミク・ナースロボ_タイプT
Lo-fiヒップホップ的な気だるさのあるトラックなんですけど、サンプリングがガチャガチャしててとても好み。あとループの8小節目にドラムのパターンがドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッって変わるやつ(こういうのなんていうんだ)がめちゃめちゃ好き。
ボカロ曲としては珍しいタイプの曲だと思うんですけど、逆にボカロ以外でだったら男性ヴォーカルだろうが女性ヴォーカルだろうが曲の雰囲気がガラッと変わってしまうと思います。唯一無二感。
映像が全編実写なのも面白いですよね。ボカロでちょっと変わった感じの曲を探したいときは、こういうサムネイルにキャラが写ってないやつを順番に聴いていくとヒット率が高いです。
なみぐる - あなたは世界の終わりにずんだを食べるのだ / なみぐる feat.ずんだもん

ボカロ製作者はDTMerが多い…というのはボカロ自体がDTMなのであたりまえなんですけど、この人はなんか明らかにブラックミュージック系のバックグラウンドを感じる人で、ベースラインの気持ちよさとか全体のグルーヴ感が頭一つ抜けてる感じがするんですよね。
それでいてちょっと切ないというか、明るいのに憂いのある感じの歌モノもけっこうあって、他の曲だと去年のベストに(去年リリースじゃないのに間違って)挙げたこの曲がめちゃくちゃ好きです。

om - RBF SYNDROME / Kasane Teto SV

ドラムトラックがシャキシャキしててすごく気持ちいい!聴いてて自然に身体が動くタイプの曲で普通にダンスミュージックとして最高。メロディもめちゃくちゃポップ。
で、おもしろいのがどうもこの人は日本語ネイティブではないみたいで、概要欄にも機械翻訳を使ってると書いてあって、そういわれて歌詞見てみるとやっぱり独得の感じがあると思う。でも違和感っていうよりはなんか「良さ」になってる。良い。大好き。
𓁿 - 夢見る電脳海月 feat.ナースロボ_タイプT

ちょっともう好みのど真ん中すぎて、この曲がいいのか単に俺の好みなのかどっちかわからなくなってるんですけど、ワルツフェチの方は一定数いると思うので胸を張って紹介します。
ちなみにこの人はボカロがメインではなくて普段はドリームコアっぽいインスト曲を作っているみたいで(これとか)、そっちもかなりいいのでおすすめです。
吉田楓 - 来訪者たち feat ナースロボ_タイプT (ボカコレ2026冬)

ちょっとうまく表現できなくて「おもしれ~」としか言えなくてもどかしいんですけど、なんか曲もいわゆるDTMっぽくはないし、映像もいわゆるボカロの感じではないじゃないですか。
でも「曲と映像をセットで作る」っていうボカロのカルチャーの中からこそ生まれてきた作品だよなという感じもして、こういうのまで内包しているのが現代ボカロカルチャーの多様性、という感じがしています。
読谷あかね - ボーイズセイハロウ 超体操バージョン

ボカロ界にはブレイクコアはけっこうあるのですが廃退的であったりドエモなのが多かったりして、こういうカラッと異常なブレイクコアが少ないのはちょっと不満です。(創作ジャンルにおける不満は全て「お前がやれよ」でしかないのですが…)
原口沙輔 - 人マニア - 重音テト

ただこういう人がちゃんと評価されて一線に出てくるのがボカロシーンの懐の深さであり、芯の強さでもあると思うんですよね。
以前、上で挙げた「黒塗り世界宛て書簡」のフロクロさんとちょっと話をさせてもらったことがあるんですけど、そのときに「ボカロはニコニコ動画で全曲聴いてる人がいるから、才能は絶対に埋もれずに発掘されます」って言ってたんですよ。マジかよと思ったんですけどその後1年半掘っていろいろ見た結果、それがマジだということがわかりました。
そんな感じで音の面白さを主眼にいろんな曲を紹介してきましたが、これ以降はわりと普通にポップミュージックとして好き、という感じの曲を紹介していきます。
歌モノのポップス曲の好きな理由って「この曲が好きだから」以外にあるか!?という感じもするのであんまりコメントするのも無粋なのですが、どうしても言いたいことだけ添えつつババッと紹介していきます。
∴煮ル果実 - 『ハルニ』

本当にいい曲。音の作りも面白くて丁寧に作ってる感じがする。かわいくて躍動感のあるピチカート。そのあとサビ前半8小節と後半8小節のテンションが違うのも面白い。前半のバタバタしたドラムが好き。
いや、でもそういうディテールの足し算じゃないんだよなポップスのよさって。この胸がいっぱいになる感じは言葉で言い表せない。ここまで8000字書いてきた奴が今さら何をという感じではありますが。
月裏 - ゴー・トゥ・大都会 / GUMI

だいぶ上のほうで紹介した『あなたはヒーロー』もそうなんだけど、こういう電子音楽感(ローファイ)とボカロ(リアルな歌声をシミュレーションするという点でハイファイ志向、しかし電子の匂いがする)の相性というのは興味深いテーマなのではないかと思う(特に意見はないので雑にトピックだけ置いておくスタイル)
稲葉曇 - 『ロストアンブレラ』Vo. 歌愛ユキ

この曲の冒頭「僕・を・連れてって」のところのブツ切りの発声やばくないですか!?この2秒で5回泣ける。
rusino - ループザルーム feat. 初音ミク / "Looping the Rooms" ft. Hatsune Miku

青栗鼠 - ななしのやまい/歌愛ユキ

いま書いてて思ったんですけど映像を「暗い/明るい」でしか見てない奴にボカロの話をする資格がほんとうにあったのか。
r-906 - キャンデー / r-906 feat. 鏡音リン

この曲はSpotifyで気に入ってずっと映像見ないで聴いてて、ウワーこの疾走感が最高~とか思ってかなり聴き込んではいたんです元々。で、今ここに貼るためにYouTubeで映像見て冗談抜きで泣いてしまいました。HoYoverseが贈る都市ファンタジーアクションRPG『ゼンレスゾーンゼロ』、リリース当初からめちゃくちゃやっているので……。ちょうど映像に出てる妄想エンジェルの回で物語の舞台が始まりの地である六分街に戻ってきたことで「これがゼンゼロだったじゃん!!」と思ってめちゃめちゃ感動してしまい、その感覚が一気にフラッシュバ……いやこの話は長くなるのでいいです。
黒うさぎ - 全部夢だった! - 重音テトSV

そういう「サビがキャッチーでアップテンポでBメロが早口」みたいな曲の中での個人的頂点がこれ。
Kai - ラプラスショコラ』

声がかなり人間離れしたピッチじゃないですか。で、ボカロってこれだけキャラ文化の世界なのに、この(映像の)女の子にそんな人間離れした声を当てることに誰も違和感を持ってないのはなぜ?考えたら不思議じゃないですか?不思議ですよね?
とか言って、その後1年半聴き続けた結果、自分も違和感を持たない側の人間になりましたが……。理由らしい理由は特になかった。
シャノン - 『死別』

歌詞がエモーショナルなので印象が引っ張られてしまうけど、曲が単体ですごく美しいので、初回はぜひ脳の言語野をオフにして聴いてほしい。
あと同じ人で真逆の曲調なんだけどこっちもすごくよくて。

いえぬ - 『レシートラスト』

「ボカロは人間のシンガーだと難しい早口ができるので歌詞詰め込みがち」という話はよく聞くけど、音域で人間離れしている曲って意外に少ないんじゃないでしょうか。
最高音がちょっと上ずって聞こえるのは、ボカロもこうなるんだ…(技術的興味)という気持ちになりました。
Cyano -『Messed up』

この曲は正直ちょっと惜しく思うところはいろいろあるんですけど、それを補ってなお二人の歌声のユニゾンがいい。デュエット曲ばっかり作ってる人みたいなのでこの調子でいっぱい作ってほしいです。
おわりに
ボカロ、本当に豊饒な世界だと思います。掘るのが本当におもしろい。それってやっぱり、さっきも書きましたけどタグさえつけて投稿すれば全曲巡回している人がいたり、ボカコレみたいな機会があったりして、才能がちゃんと拾われていくエコシステムができてるのがめちゃめちゃ強いんだと思います。で、その中で育っていまメジャーシーンで活躍してる人もいっぱいいるわけじゃないですか。日本の音楽シーンの将来性たるや…という感じがしますね。
あと今さらなんですが、しめくくりにこの記事を書こうと思ったきっかけを書きます。
先日、「超かぐや姫!」を見たんですよ。そしたらこの曲が

めちゃくちゃ良くてびっくりしてしまって、何だろうと思って調べたら、原曲が2009年の、まさに最初に書いた全然ついていけなかったボカロ、「電子の歌姫・初音ミクさんが一生懸命エモい歌を歌う」的な曲だったんです。
それで、あのとき「興味ね~」と思った自分の先見性のなさ!とも思うし、同時にあそこから17年かけてここまでの場を作ったボカロシーンの、なんか底知れなさみたいなものを改めて感じてしまって。本当に尊いなと思ったんです。
だから僕がボカロについて知ってることというのは本当に少ないんですけど、それでもちょっとでも知らない人が興味を持つきっかけになれたら嬉しいと思ってこの記事を書きました。
クリエイターとして参加しない人であっても、聴くこと、コメントすること、その一つ一つが創る人の力になれる世界なので。
YouTubeでプレイリスト作ってあるのでまとめて聴きたい人はどうぞ。音だけ聴きたい場合はYouTube Musicでも使えると思います。
youtube.com
