メダカを飼うとき我々が対峙するのは魚ではなく生態系である

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GWに釣り堀に行ったのをきっかけに子供たちのサカナ熱が高まり、家でメダカを飼うことにした。この記事はメダカ飼育の宇宙について、拙宅の事例をもとにご紹介するものである。

メダカを適当に買うと死ぬ(メダカが)

メダカは学校の教室なんかでも飼っていたりして最低限の世話で簡単に飼えるイメージがあるが、なめてかかるとやばい。

買い始めたのは1か月ほど前。子供むけのメダカの買い方の本を買って子供と一緒に予習し、ホームセンターで飼育セットを買った。水槽とろ過フィルタがセットになったものだ。エサやカルキ抜き薬などのサンプルも付属しているので、これさえあれば消耗品まで含めて最初の1週間くらいはまかなえるようになっている。

ジェックス メダカ元気 ラクラクセット

ジェックス メダカ元気 ラクラクセット

魚は水槽のサイズをもとに店員に頼んで、メダカ10匹とヤマトヌマエビ3匹を見繕ってもらった。

家に帰ったら子供と一緒に、カルキ抜きした水を水槽に入れ、メダカとエビを袋のまま投入。数時間たって袋の中と外の水の温度がそろってきたころに、袋を破って水槽に放す。
メダカもエビも元気そうに泳いでいたので、エサをやった。家に来てくれた魚たちへのもてなしである。

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買ってきたメダカはまず袋ごと水槽に突っ込み、水の温度を合わせる。

同時にAmazonでタイマー付きのライトも注文し、飼育環境は万端に整ったかのように思えた。

こうして、メダカと共に暮らすゆかいな生活が始まった……はずであった。

危機

2日くらいたった頃だったろうか、気づいたら1匹のメダカがバランスを崩したようにフラフラ傾きながら泳いでおり、数時間後には死んでしまった。あとにつづくように、翌日にはもう1匹の様子がおかしくなり、それからは1日1匹のペースで、メダカかエビが死んでいく。水は澄んでおり見た目にはきれいな水槽であったが、何かとても良くないことが起きているようだった。

子供が主に世話をしていく予定だったところを、非常事態のため指揮権を一時預かり、自分が全面的に対応することにした。

最初に買った子供向けの本に「水流が強すぎると疲れて死ぬ」と書いてあったのでポンプを弱め、エサの量も少なめに調節した。しかし翌日もメダカは死ぬ。ライトが体内時計を狂わせているせいかと思い光を弱めた。メダカは死ぬ。隠れる場所が必要と書かれていたので水草と壺を入れた。メダカは死ぬ。

こちらの焦りとは無関係に、何をやってもメダカは死ぬ。エビも死ぬ。

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子供が撮った、心象風景みたいな写真が残っていた。(実際はまだ生きている時だが)

もしかしたらこれはもっと根本的な問題なのかもしれない。そう思ったのは水槽の生体が半分になったころだ。アクアリウムの専門サイトを端から読み倒し、一つの事実に直面するに至った。

水槽の中にいるのは、魚ではなかった。自分がいま対峙しているもの、それは、生態系であったのだ。

水槽を飼うということ

水槽の水質はただ水替えによって保たれるものではないらしいのだ。

  • 魚の生活によって水中には有毒なアンモニアが排出され
  • それをバクテリアが分解し、これまた有毒な亜硝酸に変える
  • それを別のバクテリアが分解し、硝酸塩に変える
  • 水草がその硝酸塩を吸収する

こういったメカニズムによって、水槽の水質が保たれる。ただし新しい水槽にはバクテリアが生息しておらず、このフローが機能していない。そのため水中に有毒物質がたまり、魚は死ぬ。

実は、水槽の立ち上げ(新設することをこう呼ぶらしい。サーバと同じだ)時はこのフローを確立するのが最優先事項であるという。バクテリアは空気中を漂うものが自然に舞い込むが、十分機能するほど増えるには時間が必要だ。さらにバクテリアはアンモニアがないと増殖できないため、死ぬのを覚悟でアンモニア排出用の魚(パイロットフィッシュとよばれる)を入れたりもするという。

なるほど、魚を飼うということは、水槽の中に生態系を作り出すことなのだ。言ってみれば「魚を育てているのではなく、水槽を育てている」感じなのである。

実家では犬を飼っていたが、犬に対しては人間が散歩に連れて行ったりブラッシングしたりと、直接世話をする。魚の世界というのは全然違って、人間が水槽環境や生態系の世話をし、その中で魚が暮らすという間接的な関係なのである。そのことに気づくのがずいぶん遅れてしまった。*1

こんなこと、最初に参考にした子供向けの本には全然書かれていなかった。とにかく、ここへきてようやく、問題の本質が見えてきたのだ。

水質改善

理屈はわかった。では実際のところ現状はどういう状況であるのか、調べてみるのが次のステップとなる。

水質を測る試験紙を購入した。

テトラ (Tetra) テスト 6 in 1 試験紙

テトラ (Tetra) テスト 6 in 1 試験紙

理科の授業で使ったリトマス試験紙のようなものだが、phのほかに塩素濃度とか亜硝酸濃度とか、いろんな数値が測れる。値は付属のカラーサンプルでも読めるのだが、面白いのが

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スマホのアプリと連動していて、使用前と使用後にカメラで写真を撮影することで、色変化を読み込むことができる。

これが初日の測定結果である。上から2番目のゲージを見てほしい。下についてる三角が測定値。有毒物質である亜硝酸がメーターを振り切っており、「これは死ぬわ」という感じであった。死んでしまった魚とエビには本当に申し訳のないことをした。

しかし、少なくとも原因までたどりつけた。残りのメダカたちのために、あとは粛々と対処するのみである。

毎日水を替える

これまで、本にあった「過度な水替えは魚に負担をかける」という情報をもとに、水替えを週1ペースで考えていた。これが決定的に良くなかった。バクテリアがいない以上、増えてしまった亜硝酸は水替えで捨てるしかない。毎日やるべきだったのだ。

ここで少し脱線するのだが、この水替え用のアイテムにちょっと感動したので紹介させてほしい。水槽の水替えは(電動のものを使うのでなければ)一般的にサイフォンの原理を利用したプッシュ式のポンプで行う。灯油ポンプなどでも使われるアレである。
最初に買ったポンプはまさに灯油ポンプという見た目で、かなりシュコシュコやらないと水が流れず面倒なものだった。しかしネット勧められているものに買い直してみたところ、一気に水替えがエンタテインメント化したのだ。

水作 プロホース エクストラ S

水作 プロホース エクストラ S

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ポンプが手元にあって押しやすいのも良いのだが、なにより、掃除が兼ねられる。水と一緒に底砂も吸う→底砂に混じっていたゴミだけ吸い込んで砂は戻す、ということができるのだ。このとき水槽の底には思った以上のゴミが沈殿しており、それがどんどん吸われて水槽がきれいになっていくのが、実に快感なのである。

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ゴミまでは見にくいけど、砂を吸ったり戻したりするのは見えると思う。これと一緒に細かいゴミがどんどん吸われていく

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1回の水替えでこんなに大量のゴミが出た。ショックであり、快感でもある

これを使って、毎日多めに水を替えた。水槽半分ずつくらい。一般的には替えすぎといわれる量なので残ったメダカには少し負担がかかっただろうけど、毒素満載の水の中で死んでいくよりははるかにマシという判断だ。これが功を奏して、数日後から亜硝酸の値はぐんぐん減っていった。

エサを変える

飼育セットにサンプルでついてきたエサをやっていたのだが、これは粒状で沈みやすいものだった。メダカは水面に浮いているエサを食べるので、沈んだエサは食べられず、傷んでアンモニアの発生源となる。フレーク状のものに変えてみたら沈みにくく、メダカが食べきるようになってよかった。

ヒカリ (Hikari) メダカプロス 48g

ヒカリ (Hikari) メダカプロス 48g

ろ材を増やす

バクテリアは水槽の中やフィルタ中のろ材の中に増える。このろ材の表面積を増やしてやるとバクテリアが増えやすいという。パイプ型のろ材を購入して、フィルタ内に追加した。

寿工芸 ダブルバイオ

寿工芸 ダブルバイオ

このろ材はボールとパイプ型がセットになっていて、ボールはフィルタに入りきらなかったので壺の中に敷いてある。

バクテリアを添加する

これはどういうことなのかよくわからないのだが、濃縮バクテリアが市販されている。バクテリアはボトルの中で死なないのだろうか。休眠状態になっているというが、そんなに常温保存が効くものなのか。

ジェックス サイクル 250ml

ジェックス サイクル 250ml

この手の商品はネットで調べた限り、効果があるとかないとかで賛否両論なのだが、期待される効果としてはまさに今求めているものだ。賛がある以上は試す価値があるだろうということで、水替えのたびに入れた。藁をもすがる、というやつである。


以上を10日くらい続けることで、ようやく亜硝酸の値がグリーンゾーンまで落ち着き、さらに毎日水替えしなくても値が上がらなくなった。水槽内のバクテリアも増えてきたということだろう。


最新の測定値。ちょっと二酸化炭素が多いが致命的ではないし、ほかはオールグリーン。

神の視点で環境をいじっていく魚の飼育は、シミュレーションゲームっぽさがある。シムシティとかと同じ種類の楽しみだ。試験紙を使えば数字でステータスが見られるのもゲームっぽい。

しかしながら、今回の苦境を乗り越えて最終的に残ったのは、メダカが2匹のみ。よく耐えてくれた…。

第2章:コケとの戦い

水質が整ってから様子を見ること5日ほど。メダカはもう死ぬことはなく、毎日元気に動き回っている。これでようやく平穏な日々が訪れた……と思われたのだが、こんどは別の問題が発生した。

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コケだ。通常は立ち上げ初期の亜硝酸の多い時期に発生しやすいらしいのだが、うちは今頃になってやってきた。

取り急ぎメダカに悪影響はないようで助かったが、さすがに見栄えが悪い。そこで、清掃部隊の投入である。ヤマトヌマエビを再度3匹、購入した。死んでしまった前のエビには申し訳なかったが、今回は水質が改善されたので長生きできるはずだ。

そしてこのエビ、コケに対する食欲がすごい。

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小さなはさみで壺や水草の表面のコケを掬い取っては、口に運んでいく。チマチマチマチマチマチマチマチマ。

なんと数時間のうちに、壺に着いたコケが一掃されてしまった。

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みるみるうちにピカピカになった。上のGIFの壺と比べてみてほしい

水槽のガラス面のコケは食べられないようなので、メラミンスポンジで拭いた。そのとき剥がれて沈んだコケもエビが一掃してくれた。本当に大好物なんだな、という感じである。

そして平穏

エビがコケを一掃してから、1週間あまりが経過した。

エビと一緒にメダカも2匹だけ追加したため、現在はメダカ4匹、エビ3匹が水槽の中で暮らしている。もうメダカもエビも死ぬことはなく、(魚としてもこちらとしても)平穏な毎日を過ごしている。メダカ10匹用の水槽なので、もう少し様子を見ておいおい増やしてみようと思う。

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残る課題としては、水草の元気がない。一度コケの浸食にあい、しおれてしまったのだ。現在コケはエビがきれいにしてくれたが、相変わらず元気は回復していないようだ。
買ったポットに入れてそのまま置いているのが良くないのかもしれない。本来は植え替えた方がいいらしいのだ。こういうのを買ってみようと思っているのだが、これなら3Dプリンタと適当な金具で作れそうな気もする。

もしこれからメダカを飼い始めようとしている人がいたら、僕から言いたいことは一言だけだ。「相手は魚ではない、生態系である」。これを忘れず、適切な対処を行うことができれば、きっとうまく飼えると思う。

今回紹介したのはあくまで自分の例なので、どの水槽も初期は毎日水替えをした方がいいのかはよくわからない。きっとそれぞれの水槽の状態があるだろうから、とりあえず水質検査キットだけでも買っておくのがおすすめだ。

テトラ (Tetra) テスト 6 in 1 試験紙

テトラ (Tetra) テスト 6 in 1 試験紙

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最後に、元気になったメダカの様子でお別れです

追記:このあと追加で入れたメダカが数日で死んでしまうということが何度かあった。今回は「水合わせ」が足りなかったのが原因で、新しい魚を水槽に入れるときは必ず買ってきたときの水と水槽の水の温度を合わせた上で、少しずつ水を入れ替えて慣らしていく、ということをしないといけない。これをやらなかったり雑にやると、たとえ水槽が完成していても、魚は数日後に死ぬ。水合わせ不足だと即死するものだと思っていたので、究明に少し時間がかかった。ご注意ください。

*1:もちろん直接魚の世話をする機会が全くないかというとそうではなくて、病気になったときに薬浴させたりとか、卵を隔離したりとかの個別の世話はある。しかしそれはもうちょっと先の話である