香港の大規模デモについて、現地の友人と話したこと

※6/15追記:逃亡犯条例の審議が延期されました。延期であって否決ではないので、現地では廃案になるまで運動を続ける予定だそうです。今後の最新情報をフォローしていくことは本稿の目的と異なるのでしませんが、ひとまずこの記事は最新情報ではないということはここに明記しておきます。

今朝、香港に何人かいる友人とのグループチャットに、そちらの状況はどうか、というメッセージを送った。すぐに返事があって、きのう催涙ガスを浴びたところだという。それでも今日またこれからデモに出かけると言っていた。別の友人は昨日最前線に行って、食料とグローブ(軍手?)を届けてきたのだという。詳しく聞けば聞くほど、状況はかなり悪い。気を付けて。何か役に立てることがある?と言うと、「とにかく現状を多くの人に知ってほしい。そのためにあなたの日本語が役に立つ。」とのことだった。僕はおもしろ記事を書くのが仕事なので、政治について文章を書いたことがなくどうアプローチしていいかわからない。正直まだ考えもまとまっていなくて、何を書いていいのかわからない。でもとりあえず筆を執った。友人の頼みだからだ。

今回のデモについて

現状についてはこの記事が詳しい。

jbpress.ismedia.jp
※以下、枠囲みの引用箇所はすべてこの記事より

香港で大規模なデモが行われており、全市民の1/7が参加していると言われている。

一国二制度を掲げる香港であるが、かねてより香港政府の上層部は親中派が多数派を占めていた。さらに2014年に発表された新選挙制度によって、事実上、政府トップに就任できるのは親中派のみ、という状況が形成されることとなった。これに反対し、普通選挙を求める「雨傘革命」と呼ばれる大規模デモがあったのが2014年の秋〜冬。しかし、そのデモに対し政府は一切の譲歩を見せず、デモは警察により鎮圧された。

そして、今回のデモだ。

デモは、犯罪人を中国に引き渡すことができるように現行の逃犯条例改正を阻止することが目的であり、(中略)この条例改正案が成立すれば、デモ首謀者や民主活動家までが国家分裂や政権転覆扇動容疑者として中国に引き渡されかねない。

この条例改正が成立するということは、香港が司法の独立を捨て、中国共産党支配の司法の枠組みに入ると宣言するに等しい。

乱暴なのを覚悟で、一言で言ってしまえば、香港が中国に支配されてしまうことに対する抵抗である。生まれ育った国(地域)が、他国に乗っ取られてしまう。僕はそんな経験はRPGの中でしかしたことがなかったし、自分の身に起こると考えたこともなかった。しかし、いま友人たちが、一緒に香港でも東京でもロボットを戦わせたり食事をおごったりおごられたりした友人たちが、その危機にいま晒されている。それを現実にしないために必死で戦っている。

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彼らから送られてきた写真。催涙弾をヘルメットで覆い、水をかけているところ。(ネットで広く拡散されていて、出典がどこかよくわからない Kenji Wong Wai Kin氏 撮影)

6/13時点の状況について

上記の記事と重複するところも多いが、彼らが言うには、最前線ではこんなことが起きている。

  • 本来、催涙弾は中空に発射し、群衆の中に落下させガスを拡散する。しかし香港警察はデモ隊のメンバーを直接狙撃するのに使用している。ある一発はデモ隊の一人の頭部を直撃した。
  • 催涙ガスは目に強い刺激があり、肌が燃えるような感じがして、鼻も吸い込むと火が着いたような感覚になる。
  • (別の友人)遠くにいるとワサビのような感じだが、近くにいると目に唐辛子を入れたような感じ。
  • 香港警察は一人のジャーナリストを滅多打ちにした。ジャーナリストや医療従事者への攻撃はジュネーブ諸条約で禁止されているにもかかわらず。
  • 香港警察はデモ隊が彼らにレンガを投げつけたり、とがった鉄の棒で突き刺したりしたと主張している。しかしそのような事実は考えにくい。普通の市民がどうやって鉄の棒を鋭利にとがらせることができる?
  • 武装しておらず、暴力も伴わないデモを、香港警察は暴動であるように見せかけようとしているのではないか。そうすれば警察が暴力をもって鎮圧する理由になるから。
  • 香港警察の多くは、実際には中国本土の人間ではないか。
  • デモ隊のメンバーは今は正気で、無暴力である。しかし追い詰められている。もしデモ隊側にだれか一人でも死者が出たりしたら、その時は暴徒化を止められないかもしれない。
  • そうならないことを心から祈っている。

実際のところ、これらすべてが事実であるかどうかは確認しようがない。ただ上記の記事を含めた報道と一致するところも多く、個々の事象の真偽はともかく、少なくとも香港警察の暴力性については疑う余地がない。
また、恐ろしいのはこの点だ。

心配なのは、中国・香港政府サイドが、そういう野蛮な方法をとるために、デモを“暴徒化させる”可能性だ。警察サイドには広東語ではなく、マンダリン(北京官話)を話すものも混じっているという証言があちこちで聞かれ、中国側が送り込んだ“工作員”が平和デモ隊を“暴徒化”に煽動しようとしているのではないか、という噂もながれている。そうすれば警察が暴力的でも、“暴徒”を鎮圧し、香港の治安を守った、という大義名分が立つ。

チャットで現状を聞くにつれ僕は何も言えなくなってしまって、結局は「自分もデモの趣旨に賛同する。でも自分の安全を最優先に考えることを忘れないで」ということを言った。祖国を失うかもしれない人々にとって、この言い方が適切だったかどうかよくわからないけど…。

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友人のひとりが撮影した動画のキャプチャ。煙のようなものが充満している。(これが催涙ガスなのかはよくわからない)

友人たちについて

友人たちとは、自分が始めたイベント「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」を通して知り合った。このイベントはいままで世界25か国くらいで開催されていて(余談だがこんど7/21に東京でも大会をやる)、さっき言及した雨傘革命の翌年、2015年に香港でも開催された。それをファウンダーである僕が見に行って、そこからの付き合いである。あの時はまだみんな香港政府に対して怒っていて、試合の前に政治家の顔写真を貼り付けた木の枝をロボットで倒して操作練習をしたり、出場ロボットにも政治家を皮肉ったようなロボットが多くあった。

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政治家の顔写真を貼った枝

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手前、香港政府に「幽霊」と揶揄されている政治家がいて、それをイメージした、と言っていたと思う

いろんな国から大会の映像や写真が送られてくるので全て目を通しているけど、政治色が強いのは他国では見られない傾向で、とても印象的だった。(唯一、ローマ大会では法王をサイボーグ化したロボットが登場したが。)

それから4年間のうちに、彼らが東京に来た時に食事に行ったり、オンラインで話したり、コンスタントに交流があった。その間、香港政府に対する不信感はずっと募り続けているように見えた。

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昨年、香港を大型台風が直撃した時に送られてきた写真。友人曰く、「道が倒木でふさがれているにもかかわらず、政府が何もしなかったので、駅が満員になっている」。(倒木の除去もせず、会社を休みにもしなかったということ)

僕が理解していなかったのは、それが単に雨傘革命の余韻だと思っていたところだ。それがまさかこんな形で、もっと大きな問題に発展するとは。

知ってもらうために

以前、一度だけ、僕は彼らにヘボコンについて弱音を吐いたことがある。

「自分は日本語であれば自由自在に使いこなして、大会に出てきたロボットの面白さ一つ一つを、的確に伝えることができる。日本国内ではそれができている自負がある。でも海外に対して、それが全くできない。面白さをほんの一部しか伝えられていなくて、そのことが歯がゆい。」

彼らが「とにかく現状を多くの人に知ってほしい。そのためにあなたの日本語が役に立つ。」と言ったのは、それを覚えていてのことだ。自分は日本語であれば、事実であれ、自分の思いであれ、人に的確に伝えることができる。これが彼らに対して、彼らが愛する香港に対して、自分にできる唯一のことだ。そういう思いをかかえて、このエントリを書いている。

僕は友人たちの影響もあって、また個人の信条からも*1、デモ隊寄りの立場である。しかしどちらに加担するかといった政治的な立場は置いておいたとしても、香港警察の(ひいては政府の)暴力的なやり方は決して許されるものではない。
友人たちが、そして彼らの香港が、無事であることを祈るばかりだ。

追記:よかったら拡散してください。TwitterでもFacebookでもはてなブックマークでも何でもいいです。このエントリである必要はなくて上記の記事でもいいですし、時間が経過している場合はむしろ別の最新情報をシェアしてもらったほうがいいかもしれない。香港の現状について、彼らは知ってほしいと思っています。

さらに追記:デモの背景についてさらに詳しい記事。
finalvent.cocolog-nifty.com
友人たちとは英語でやり取りしているので(語学力の問題で)あまり突っ込んだ詳細を聞けないこともあり、とても参考になった。彼らにとってなぜ「知ってもらうこと」がそれほど重要なのかも書かれている。

*1:自分が最重要視しているのは文化であり、また文化とは突き詰めると多様性であると思っている。その点で中国が香港の独立性を脅かすことは、香港というひとつの文化の消滅に等しい