知育おもちゃ「NEWくみくみスロープ」で我々は、現実世界に点Pを召喚し、時間軸をも操れる

下の子の今年のクリスマスプレゼントは、くもん出版から出ている「NEWくみくみスロープ」でした。これが大人も夜な夜な遊んでしまう面白さでしたので、ここで共有させていただきます。

NEW くみくみスロープ (リニューアル)

NEW くみくみスロープ (リニューアル)

これは何?

ウォータースライダーをバラバラにしたような部品がたくさん入っています。それらを組み立ててコースを作り、ボールを転がして遊ぶおもちゃです。

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こういう感じのものが作れます。
ボールを転がしてみましょう。

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すでに楽しそうな感じは伝わったかと思いますが、しかしこの時点ではまだ子供のおもちゃの域を出ないでしょう。これを大人が遊んだ際の奥深さについて説明し、皆さんを羨ましい気持ちにさせるのが本稿の目的です。

でもその前に拙宅の様子を少し見てください。

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写真に写っているのは下の子ですが、彼はもっぱらボールを転がして楽しんでいます。いっぽうで上の子は、パーツを組み立てること自体をブロック感覚で楽しんでいます。上の子が下の子のために組み立ててあげる、あるいは下の子が上の子に組み立てを頼む、というような兄弟間コミュニケーションが生まれており、育児ツールとしてもなかなか良いです。

このおもちゃのことは以前からおもちゃ屋で見かけて知ってはいたのですが、「(部品点数的に)そんなに大したものはできないだろう」と思ってあまり関心を持っていませんでした。ところがクリスマスに妻の発案で購入したところ、思ったより部品が多く充実した内容でした。上で載せた動画のような凝った作品が追加パーツなしで作れます。

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これは同梱されていた組み立て例で、2つとも部品ぜんぶ使った作例です。かなり大きなものができる。

部品がいろいろある

部品の種類もいろいろです。

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上からボールが落ちてくるとクルクル回る水車のような部品とか

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すり鉢状になっていて、ボールが回転しながらゆっくり吸い込まれていく部品。
そしてコースづくりのキモになるのが

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真ん中の白い部品です。ポイント切り替え機能がついていて、ボールを交互に別の方向に送り出します。このパーツを組み込むと、以降のコースを2つに分岐させることができます。この分岐こそがNEWくみくみスロープの面白さのキモである理由は、本稿の後半で明らかになっていくでしょう。

ピタゴラ装置っぽくする

レールの上を転がすだけでも面白いのですが、ちょっと工夫してルーブ・ゴールドバーグ・マシン(ピタゴラ装置)っぽくしてみました。

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ボールが入ると動き出すエレベーターを作って、別のコースに作った障害物を動かしています。

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工夫したポイントは、エレベーターを操作するほうのボールをすり鉢に入れて遅らせ、障害物の方のボールを先に待機させておくところです。
もともとシンプルなおもちゃなので、創作意欲さえあればこうやってどんどん拡張していけそうです。

幾何学的なおもしろさ

とはいえ、このおもちゃの真価はやはり、純正パーツそのものの出来の良さにあります。
ちょっとこの写真を見てください。

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いろんな形のパーツがあり、それぞれボールの移動距離と滞在時間が異なります。でもよく見ると、レールのコネクタ部分の間隔は全て同じ、約10cmなんですね。これはどういうことかというと、

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これは構造的には直線上を往復するだけのシンプルなコースです(白い補助線を参照)。ただ、違う種類のレール(ここでは曲線と、ちょっと陰になってるけど直線)を組み合わせることで、楽しげなコースになっていますね。シンプルな構造と楽しげな見た目の両立が、意識しなくても自然に実装できるようになっています。

さらにもう一つのポイントはコネクタが円であるところで、これにより部品を自由な角度でつなげることができます。

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こういうふうに三角形に設計してみたり(補助線がつながっていないところは高低差があるからです)

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四角形をベースに組み立てていくこともできます。
もちろん五角形でも六角形でも。レゴみたいに組み合わせが縦横方向のグリッドに制限されることがないため、自由な形が作れるわけです。

で、ここで逆に考えてみましょう。いろんな見た目のレールがあるのでバラエティに富んだ形に見えますが、構造だけ抜き出してみると、シンプルな三角形や四角形なんですね。

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さらにちょっと複雑にした感じのこちらですが、実は…

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四角形に三角形を2つ組み合わせた形で構成されていることがわかります。

ちょっと動かしてみましょう。
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このときボールは縦横無尽に動いているように見えますが、構造だけ考えると、実は四角形や三角形の辺の上を動きまわっているだけであるともいえます。
数学の授業に出てきた「Aを出発し一定の速度でBを通ってCまで動く点P」が、現実世界に現れましたね。

無心で適当に組んでいってもそれなりのものはできます。ただ、こうやって平面図形を意識すると設計のときによりシンプルに考えられて、次に説明する演出面に意識を向けやすくなります。
また足のパーツは不足しがちなので、こうやってベースの形状を意識して柱の配置を決めることで、大作が作りやすくなる効果もあります。

時間軸、位置

次は、面白い作品を作るための演出の話です。ボールを転がすだけの単純なおもちゃですが、実はコントロールできる要素が多く、使おうと思えばいくらでも頭を使えます。

まず時間軸がコントロールできます。
先にも触れたように、それぞれの部品が異なる(ボールの)滞在時間を持っています。ボールは基本的に上から下に転がっていくのですが、その速度はパーツの配置によりコントロール可能です。「こっちのコースは水車パーツで素早く落下させ、もう一つのコースはすり鉢でしばらく高度をキープ」というようなことができます。

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左のコースは0.5秒くらいで落ちるけど、右は8秒くらいかかる。

ボールが落ちるのにかかる時間が変わるので、時間軸をいじっているような感覚になります。先ほどのエレベーターを作った時は、この技法を利用しています。

次に位置のコントロールです。パーツの種類によりスロープの緩急が異なるので、落下距離あたりの水平移動距離も変わります。同じパーツ1個分の距離を落とす場合でも、「こっちのコースは直線スロープで長距離を移動させ、もう一つのコースは縦パイプで垂直に落下」というようなことができます。

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左のコースは真っすぐ落ちるだけだけど、右のコースはずいぶん遠くまで行ける。

いずれも一つのコースで使ってもその効果を感じにくいので、「もう一つのコースとの対比でどうか」という見せ方をするのがポイントです。「追いつけ追い越せ」というようなレース風のシナリオであったり、「相手がゆっくりしているうちにこっそり出し抜く」というような駆け引きを感じさせるコースを作れます。

パーツ紹介のところで、分岐パーツが重要であると強調したのはこのためです。

軌跡

また、演出の観点で忘れてはいけないのがもう一つ。軌跡です。ボールをどういったルートで動かすか、というのは最大の凝りどころです。

最初に動画でお見せした作品ですが、ボールの軌跡をなぞるとこうなっています。

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いちど分岐したコースを左右に分けたのち、中盤でクロスするような配置にしてみました。これで動きとしてはかなり派手になりました。

これは軌跡としては凝っているのですが、いまいちな点もあります。時間軸のコントロールの甘さです。両方のボールが同時にそれぞれのコースのすり鉢にたまってしまい、装置全体として動きが停滞する時間帯がありますよね。片方のコースがすり鉢にいる間は、もう片方が動き続けているような設計にすると見ていて飽きないのではと、後から思いました。

おわかりいただけただろうか

紹介は以上です。少しでもこの奥深さ、そして無限の可能性を感じていただければ幸いです。

NEW くみくみスロープ (リニューアル)

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沼要素

恐ろしいことに、この記事を書く過程で、もっと大きなパッケージや、追加のパーツが発売されていることを発見してしまいました。

最初から2倍近い、100個のパーツが入っている「くみくみロープたっぷり100」

くもん くみくみスロープたっぷり100

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追加パーツの「ボリュームアップセット」「ジャンプ&大車輪セット」

NEW くみくみスロープ ボリュームアップセット (リニューアル)

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NEW くみくみスロープ ジャンプ&大車輪セット

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単価が安いのでそれほどの脅威ではありませんが、場合によってはNEWくみくみスロープ沼、あるかもしれません。